神が味方 / 木原訳

私の名前などは取るに足らない

私の年齢はそれ以上に無意味だ

私が生まれた国は

中西部と呼ばれている

私はその地で、教えられ、育てられた

法には服従するように、と

そして、私の住んでいる国には

神が味方に付いている、と

歴史の本が教えている

とても雄弁に教えている

騎兵隊が攻撃し、

インディアンが倒れた

騎兵隊が攻撃し、

インディアンが死んだ

この国は若く、

神が味方に付いていた

スペインとアメリカの間で

戦争があった時もある

南北戦争もまた

すぐに過去のものになった

英雄たちの名前を

私は覚えさせられた

彼らは銃を手に持ち

神が味方に付いていた

第一次世界大戦も

その悲惨な時代を閉じた

戦いの理由は

私には納得できたことが無かった

けれども私は戦いの理由を受け入れた

誇りを持って受け入れることを覚えた

なぜなら、神が味方に付いている時は

死者を数えたりはしないのだから

第二次世界大戦が

終ったときに

我々はドイツ人を赦した

我々は友人同士になった

彼らは六百万人を虐殺し

かまどで焼いたけれど

今ではドイツ人にも

神が味方に付いている

私は一生を通してずっと

ロシア人を憎むように教えられてきた

今度また戦争が始るなら

我々が戦わなければならない相手は彼らだ

彼らを憎むこと、彼らを恐れること

逃げること、隠れること

神が味方に付いているのだから

すべてを勇敢に受け入れる

我々は今や

死の灰の武器を持っている

撃つことを強いられたなら

撃たねばならない

ボタンの一押しで

世界中を打ちのめす

神が味方に付いているときは

決して質問などしてはいけない

暗がりの中で長い間

私はこういうことを考えていた

イエス・キリストは

くちづけで裏切られた

私が君に代って考えてあげることは出来ない

君が自分で決めなければならない

イスカリオテのユダには

神が味方に付いていたのかどうか

私が去っていく日は近く

私はひどく疲れ果てている

私の困惑の思いは

どうにも言い表すことができない

言葉は頭の中に満ち

床にこぼれ落ちていく

神が我々の味方なら

次の戦争を止めて下さるだろう

翻訳メモ

ボブ・ディラン の "With God On Our Side" の翻訳である。原詩は bobdylan.com > "With God On Our Side" にある。

1963年に作られたというから、ずいぶん古い歌で、ディランが反戦フォーク・シンガーだと思われていた頃によく歌われていたらしい。レコードでは、"The Times They Are A-Changing (1964)""MTV UNPLUGGED (1995)" に収録されている。後の方の演奏では、元からある詩の5番と6番が省略されている。上の訳詩でも、同じように、5番と6番をコメント・アウトしている。

*

友人の一人が、同じように、最近、この歌を訳した。彼は言う、

ボブ・ディランの古いアルバムに、With God On Our Side という素朴なメロディの曲が収められている。1963年、ディラン、21歳。公民権運動や反戦活動のさなか、時代の寵児として祭り上げられていた頃の作品である。それからおよそ30年の歳月を経てかれは「MTV Unplugged」と題された音楽番組収録用のコンサートのアンコールでこの曲を歌っている。アメリカのあの衝撃的なテロ事件が起こってから (それは奇しくも、ディランの21世紀はじめてのアルバムが発売された日でもあったが)、私はテレビのニュースを見るたびに、米国人であるディランはいまどんな気持ちでいることだろう、としばしば思いを馳せていた。そしてそれはきっと、前述したライブでのかれの演奏に近い気持ちではないか、と思っていたのだった。原曲より、さらにテンポを落として、歌はまるで教会の祈りの聖句のように、さりげなく、だがある種の侵しがたい緊迫感と最後の切実さをもって歌われる。(そう、バトンを渡されるあの厳かな瞬間だ。勇気のあるものは手をのばし、かれの顫える指先からそれを受け取りたまえ ! ) 曲が終わり、気力のすべてを使い果たした歌い手は、ステージの奥へ帰っていく。あとには淋しい残像と問いがひっそりとカケラのように散らばっている。「わたしはひどく疲れ果てた / わたしの感じている混乱は、とても言葉では言い表せない」 それはあの日以来ずっと感じている、わたしの気持ちと同じものだ。だからわたしは今宵、しずかな月夜の晩に、その歌 With God On Our Side を祈りの聖句のように訳した。この歌の語り手とおなじように、私には何ひとつ、なすすべがない。

2001.10.30 深夜

まれびと まれびと/village idiot 「ゴム消し」から

この人は、いつも、それこそ私が言いたかったことなのだ、と思わせるようなことを言う。本当は、彼が言うのを聞くまでは、私はそんなことは思ってもいなかったのかも知れない。しかし、誰が最初に言ったとか、誰が言ったとかは、小さなことだ。

彼の訳した詩も読んで欲しい。そして、出来るなら、MTV Unplugged で歌われている歌をあなたにも聞いて欲しい。

2001年10月

最終更新日 : 2011-01-19