殺しの許可証 / 木原訳

人は、自分は地を統べる者だから、好きなようにしてよいのだ、と思っている。

物事がすぐに変化しないなら、自分が変えてやるのだ、と。

ああ、人は自らの破滅を発明してしまったのだ、

その第一歩は月に手を触れたことだった。

ところで、うちの近所に女が一人いる、

彼女は静かに更けて行く夜に、ただそこに座っている。

彼女は言う、誰が彼の殺しの許可証を取り上げてくれるのだろう、と。

さて、人々は彼を抱き、彼を教え、一所懸命に彼を育て上げる。

そうやって人々は彼を病に至る道の始点に立たせるのだ。

やがて人々は彼を星条旗と共に埋め、

中古車のように彼の体を売りさばく。

ところで、うちの近所に女が一人いる、

彼女は丘を眺めて、ただそこに座っている。

彼女は言う、誰が彼の殺しの許可証を取り上げてくれるのだろう、と。

さて、彼は破壊することに夢中で、怖がっていて、途方に暮れている。

彼の脳は卓越した技術で間違った処置を施されている。

彼が信じるものは彼の目だけ、

だが彼の目は、彼に嘘を教えるだけ。

ところで、うちの近所に女が一人いる、

彼女は身を切る寒さの中、ただそこに座っている。

彼女は言う、誰が彼の殺しの許可証を取り上げてくれるのだろう、と。

あんたは騒ぎ立てる事が出来るかもしれない、

活気を生む事が出来るかもしれない、

人の心を張り裂くことが出来るかもしれない、

骨折り仕事をこなせるかもしれない、

出来る限りのことをやってみるが良い。

陰謀に一役買うことが出来るかもしれない、

それぐらいがあんたに出来るせいぜいの所だろう、

あんたが自分の間違いを身に染みて知るまでは。

さて、彼はよどんだ水溜りの祭壇に礼拝をささげ、

泥水に映る自分の姿を見て、満足する。

ああ、人はフェア・プレイに反対している。

彼はすべてを欲しがり、自分のやり方を押し通したがっている。

ところで、うちの近所に女が一人いる、

彼女は静かに更けて行く夜に、ただそこに座っている。

彼女は言う、誰が彼の殺しの許可証を取り上げてくれるのだろう、と。

翻訳メモ

ボブ・ディラン の "License To Kill" の翻訳。原詩は bobdylan.com > "License to Kill"

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テロリズムによる殺戮も、テロリスト撲滅のためという戦争による殺戮も、僕の気持ちを暗く沈ませる。テロリズムも、報復戦争も、どっちも嫌だ。きっと、あなたもそうだと思う。単純な話だ。「お前はどっちの味方に付くのか。テロリストか、アメリカか。イスラム原理主義か、西欧自由社会か」というような無理な選択を迫られたら、「おれは洗濯機の味方だ」と答えよう。ナンセンスな問いには、ナンセンスで答えるしかあるまい。もう少し話が判りそうな相手なら、「人を殺すのは嫌い、生命を大切にするのが好き」と答えよう。幼稚でナイーブで感傷的だと馬鹿にされても構わない。簡単なことだ。

2001年11月

最終更新日 : 2011-01-19